IYAGI
INTERVIEW
先輩移住者インタビュー
掲載日:2026年8月28日
更新日:2026年8月28日

利府町
利府町で手にした、就農と「晴耕雨読」の暮らし 近江貴之さん
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近江貴之さん
利府町で「梨」の栽培に取り組み「利府おもて梨園」を営む近江貴之さんは仙台市のご出身です。東京から利府町にUターンして8年目を迎えます。
潜在的に「自らの手で、誰かに喜んでもらえるモノを作りたい」という想いはあったという近江さんは、会社員から転身を果たし梨農家として、新たな可能性に挑む日々を送っています。利府町では前例が無かったという「非農家出身者による梨作り」に挑戦し軌道に乗せたことで、その先駆けとしても町に新風を巻き起こしています。
利府梨の伝統を守りながら、農業に新たな価値観を吹き込むべく日々汗を流す近江さんに、これまでの経緯や梨作りへの想い、そしてこれからを伺ってきました。

宮城県利府町は仙台市や松島町に隣接し、豊かな自然と都市機能が調和した町です。
秋の訪れとともに、甘い香りに包まれる利府町。町を代表する特産品「利府梨」は、明治時代から約150年にわたり大切に育まれてきた地域の誇りです。みずみずしい果汁と上品な甘さを備えた利府梨は、多くの人々に愛され、収穫期には町内各地の直売所や梨園がにぎわいます。
価値観の変化
Uターン前は東京の大手企業に12年間勤務されていたという近江さんに、会社員から転身された理由をお聞きすると「やりがいがあって楽しかったし、不満があった訳でもないんです。僕の中で価値観が変わっただけで、すごくお世話になった会社です」と、前職の会社への感謝の想いを丁寧に語ってくれました。

その上で「大きな会社でしたから、もちろん達成感も大きく楽しい仕事もたくさんありました。ただ、組織の中ではどうしても自分は歯車の一つという感覚はありましたね」と当時の心境を回想します。
もともと農業に興味を抱いていたという近江さんは「全てにおいて裁量があり、自分の手で作ったモノで喜んで頂けることを生業にしたいと思うようになりました」と、前職を全うする中で芽生えた、価値観の変化も語ってくれました。折しも、ご家族の事情で地元に戻らなくてはいけない状況も重なり、宮城県へのUターンと農業への転身を本格的に考える様になったといいます。
地方創生イベントをきっかけに利府町へ
そんな中、東京ビッグサイトで開催されていた地方創生イベントに足を運んだ近江さん。そこで出会ったのが利府町のブースでした。

「利府町は、子供のころにサッカーでお世話になった町で親近感がありましたので話を聞いてみたんです」詳しく話を聞くと、そこで梨作りの担い手「地域おこし協力隊」の募集をしている事を知ったそうです。
「町の地域資源を活かしたモノづくりも出来るし、6次産業化まで可能ということで、自分でも独立できそうだなって思いました」と近江さん。思い描いていた概念と合致していた他、当時お父様が仙台市内で一人暮らしをしていたこともあり、他の県内の梨の産地(蔵王町、美里町、角田市など)よりも近い、利府町の地の利にも魅力を感じたそうです。

近江さんは「こんなに近くで梨作りが出来るなんて魅力的でした。『渡りに船』でしたね!」と、その時に利府町で梨農家を継承し、梨作りを生業にするイメージが鮮明になったといいます。
「梨づくり」を学ぶべく、Uターンして地域おこし協力隊に
移住前からすでに「梨」を生業にすると心に決めていた近江さんは、2019年に利府町へUターンを果たすと、農業経験を積むために利府町地域おこし協力隊に着任。早々に梨作りの師匠に指導を仰ぎながら、畑での実践を通し梨の栽培を学んでいきます。

「教えてくれた師匠がいまして、その人のやり方を見て、町で借りてくれた畑で何度も繰り返し実践しましたね。まったくの素人でしたから、、、周りの梨農家の皆さんも本当によくして頂き助かりました」と、当時の奮闘ぶりや協力隊としての活動について話してくれました。
「梨は秋のイメージですが、実は1年を通して細かい作業があるんです。それと虫や鳥に食べられたり、霜が下りたり、自分ではコントロールできない要素もありますね。あとは、独立したので定期収入がある訳でもないですから、そういう苦労はありました」と、経験してみて知った梨栽培の奥深さや異分野への挑戦の難しさを語る一方で、「身体的に辛いのはありますけど、良い意味での『運動』ですから、心地よい疲れですね!」と、持ち前の前向きな性格ものぞかせていました。

そんな近江さんに、梨農家継承への挑戦に不安はなかったかと尋ねると「正直、不安はありましたね。でも『良い梨作ってみせるぞ!』っていう気持ちのほうが強かったです」と眼を輝かせます。また自身が利府に来る前までは、町内には“非農家出身者”で梨作りをする人が居なかったことに触れ「僕がその前例を作るつもりで頑張りました」と、当時の士気の高さも伝わってきました。
担い手として梨作りの継承。「利府おもて梨園」の誕生
師匠のもと梨農家としての経験と学びを重ねた近江さんは、協力隊の任期を終えた2023年に、耕作者不在だった農地を引き継いで、「利府おもて梨園」を創業します。
手をかければ手をかけるほど“良い梨”が育つ事を学び知っていたという近江さんには「あとは自分の努力と一定の農地(面積)があれば、生業に出来るという算段はできていました」と、冷静な分析から来る確かな勝算もあった様です。

「利府おもて梨園」は今年で3年目を迎えます。現在は、13種類もの梨を栽培する2つの梨畑を忙しく行き来する近江さん。この日も梨の手入れの合間に時間を作ってくれてのインタビューでした。汗を拭いながらのお話しぶりに充実感が伝わってきました。

梨の付加価値を再発掘「金の利府梨カレー」のリリース
近江さんの挑戦は梨を作るだけにはとどまりません。梨作りをする中で、傷物や規格外の梨の多さに着目してレトルト食品「金の利府梨カレー」を開発。利府梨に新たな付加価値を生み出しました。

リフノス内のカフェアリーノなどで販売されています。
「良くておまけ、場合によっては廃棄されることもあるんです。利府梨が減少傾向にある状況下で、もったいないなと思ったんですよ」と、その商品開発は食品ロス削減の取り組みにも繋がっていきます。

また「東京で暮らしていた頃には、本場のスパイス文化に魅了されまして、自分でカレーを調合したりしていましたね」という近江さんは、韓国では梨がキムチの材料になっていることや、旨味になるという知見も得たことで「そのスパイスと梨をかけ合わせたら面白いものが出来るんじゃないかと思いました!」と、梨とカレーを組み合わせるという、ユニークな着想の背景も教えてくれました。

開発を始めたのは地域おこし協力隊任期中の2019年のこと。利府町役場の職員の方々に試食してもらいながらブラッシュアップを重ねたほか、前職の会社の協力を得て、社員食堂でメニューとして提供してもらうなどのプロセスを経て商品化に成功。2021年に販売を開始しました。
「役場の皆さんにPRしてもらい、前の会社にも後方支援していただいたお陰で認知されていきました。たくさんの人たちの支えがあって商品化が実現できました」と、感謝の想いを滲ませる近江さんからは、周囲の人を巻き込む人徳もうかがい知れます。
この日、インタビューに同席していただいた、利府町役場経済産業部商工観光課の下戸主任に近江さんについてお聞きしました。

下戸主任は「私たち役場の職員たちにも常に目を配ってくださって、いつもコミュニケーションを意識されていると思います、だから役場内でも近江さんを『応援しよう!』という空気が出来あがっています!」と、近江さんの人付き合いの上手さを強調します。
「近江さん自身の努力が一番ですが」と前置きしたうえで、梨作りが成功しているのも、近江さんの人柄により、多くの人たちに支えられた結果だとも。

また「現在、3名の地域おこし協力隊員が、別の畑で活動しながら梨作りの技術を学んでいますが、その子たちは近江さんの背中を見てその道に入って来たと思います」と、近江さんの町への影響力の高さに一目置いた様子でした。
下戸主任が所属するシティセールス係では、ふるさと納税やtsumiki(利府町の公共施設)の運営などを事業としており、近江さんはtsumikiでのイベントに登場するなど、関わりも多く連携性が強いそうです。
さらに下戸主任は、利府町と利府高校が連携したユニークな取り組みも紹介してくれました。「私ぐらいの世代の役場職員が、各クラスに付いて授業をやる『利府学講座』というのを毎年実施しているのですが、そこで高校生たちが『近江さんの話が聞きたい』って言ってくれたんです」と、近江さんを高校に招いた逸話も絡め教えてくれました。

シーズンになると、近江さんの直売所で利府梨を購入しているという下戸主任は「雨の日でも人がたくさん買いに来るほどで、そういうのを見ると、町内にも応援している人が増えているのがわかります。これも近江さんの人柄ですね」と、直売所の様子も付け加えます。
梨と向き合い、地域とつながり、理想の暮らしを手に入れる
基本一人で2つの梨畑を忙しくこなす近江さんに、お休みの日について尋ねると「いつでも休みで、いつでも仕事ですね(笑)」と、笑顔で即答。
公私の垣根が無い暮らしを理想にしていたという近江さんは「梨が趣味で梨が仕事なので。梨大好きだし(笑)」と、おどける様な話しぶりからは、人を惹きつける“人懐っこさ”も垣間見ることが出来ました。

また「晴耕雨読ではないですけど、雨が降ったら家で本でも読もうかなみたいな。でも晴れたら梨の作業はガンガンやります!」と、理想だった今の暮らしぶりを嬉しそうに語ってくれました。
利府梨の未来を、町の未来を背負って
今後の展望をお聞きすると「梨園は作付面積×単価だから増やせばそれだけ収入が増えるので、辞めてしまった梨畑をどんどん借りて法人化すれば良いのですが、でも僕はそこじゃないんです」と、小規模でも、品質の良いものを作りたいという熱い思いを語り始めた近江さんは、年々減少傾向にあるという利府梨の生産量について触れます。

近江さんによると、利府町はその立地の良さから、仙台市のベッドタウンという側面もある一方で、宅地化による農地の減少が課題となっており、加えて生産者の高齢化や後継者不足もあって利府梨の生産量に影響がでているとのこと。

近江さんは「農地の問題は僕一人ではどうしようもない事なので、町長さんとも意見交換させていただいたり、これからも今出来ることをやっていきます」と前向きです。
また「僕自身がしっかりと梨作りをすることで仲間を増やせると思うんです。その減少傾向の歯止めになる様な人物でありたいです!」と、並々ならぬ想いを口にしてくれました。
梨作りを通し、農業に対する固定観念を覆したい
また、近江さんには梨農家を引継ぐ新規就農者を増やすビジョンもあり、近江さんの梨作りに賛同し手助けしてくれる人が出てきたことや、梨作りの習得に励む地域おこし協力隊の存在にも触れて「すごく良い流れになって来たなと思います」と力を込めます。

(昨年の様子)写真は近江さん提供
「ちょっと身なりにも気を付けて、農家は、楽しく、稼げて、かっこいいって言うのを体現し続ければ、きっと梨農家になりたいっていう人が増えると思うんです」と、近江さんだからこその考え方も打ち明けてくれました。

インタビューの最後に「農業は身体も頭も使う良い仕事で達成感がすごい。しかも楽しくてカッコいい。僕がそのロールモデルになりたいんです」と、凛とした表情で語ってくれた近江さん。
その穏やかな眼差しからは、この町と利府梨の未来を見据える揺るぎない信念が伝わってきました。
近江さんのご活躍ぶりは、利府おもて梨園インスタグラム等でご覧いただけます▼
インスタグラム https://www.instagram.com/rifu.omotenashi/
X(旧Twitter)https://x.com/ohmi0921
「金の利府梨カレー」販売サイト https://rifu-omotenashi.stores.jp/
利府おもて梨園直売所 https://share.google/Dfn99sOYDo1GXJDMy

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